2014年07月10日

耳が幸せ目が幸せの調布音楽祭2014

遂に時は来ました。
2014年07月05日 07:41の時点で視聴回数385回に達していた素敵動画の本番です。



公演中は撮影をしないで下さいと言われた端からステージを写メってすかさず注意を受ける猛者(開演前の今ならまだセーフと解したのかも)に驚きつつ、開演の瞬間を待ちます。

会場内が完全な真っ暗闇になったところで、シャルル=ヴァランタン・アルカンの「鉄道」が流れてきました。
録音を流しているなんてことは勿論、ありえないから、え、じゃあ今、ナマで弾いてるってこと? この暗闇の中で? あのアルカンの「鉄道」を?
頭は混乱しながらも、耳は本当に正直で、どんどん引き込まれていきます。
やがて、必要最小限度に絞ったようなスポットライトがポツンと点いて、全身白ずくめの公爵閣下の正装姿をぼんやりと浮かび上がらせました。
その間も休むことなく蒸気機関車は走り続けます。
聞きなれたフレーズも勿論、出てきました。
熊本人吉間を走り抜けるSL人吉を思い出しながら聴き入ってしまいました。


曲もいつかは終わります。
漆黒の長いトンネルを抜けるとピアニート公国であった。
そんな表現をしてもおかしくないようなオープニングです。


いったん闇の洗礼を受けて、日常から非日常へと引きずり込まれた私達を待ち構えていたのは、たった一台のピアノによるオーケストラでした。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466。シャルル=ヴァランタン・アルカンの手になるピアノ独奏版です。
基本的にモーツァルトを聞かないYukiにとっては勿論、馴染みの薄い曲ですが、弾けるような音の粒々感と、我も我もとなだれ込んでくるような多彩な音の数々に、耳が幸せになることくらいはできます。
やはり「ピアノを歌わせる男」「象牙のくすぐり役」という呼び名を捧げたくなる方です。
本当にこの曲を奏でているピアノは一台なのかな、楽器はピアノだけなのかなと耳を澄ませて目を凝らして、食い入るように演奏を見つめているうちに、気付いたら曲が終わっていました。

他の方々ももしかしたらそうだったのもかもしれません。
曲中、ふと我に帰ると、周囲の息を潜めるような(あるいは極度に集中したような)静けさに驚く。
ふと我に帰ると、周囲に意識を邪魔されることなく音楽に集中していたことに気付く。
その繰り返しでした。


ここで15分の休憩となりました。
ちなみにここまで一言もお言葉なし。
恐らく弟君から兄上への御着替えタイムなのだろうと思いますが、ついでに腕の乳酸値が改善されてコンディションが維持されることを祈りましょう。
離席する気力も湧かず、どっかりと着席したままその時を待ちます。
ひとつ前の列の、すらりとした綺麗なお嬢さんが、意外に熱心にストレッチを始めました。
「集中して聞き入りすぎて、体中の筋肉が強張りますよね」
そんな雑談をさせていただいたり、自分もストレッチをしたりしているうちに、第二部開始と相成りました。


背景がさっと宇宙に切り替わると、
「ガンバスター!」
というどなたかの声がしました。
かけ声の類いではなくて、思わず口をついて出たという感じでした。
私は「鉄道」繋がりか、咄嗟に『銀河鉄道の夜』を連想したのですが(勿論、演目にはありません)、そこで始まったのは「盆踊」でした。
伊福部昭の「ピアノ組曲」です。
「じゃあこれは天の川かー」と納得しつつ、動画でも踊りながら弾いていたのを思い出して、ほっこりしました。

ところどころ聴きなれたフレーズが出てきてにんまりしつつ、楽しそうに踊り弾く兄上を堪能します。
動画を聞き過ぎた弊害でしょうか、途中に楽譜をめくる「ビターン」とも「バターン」ともつかない効果音が入らない(そりゃ当然)のを少しだけさみしく思いながら、ですが。
さすがはピアノ一台で、一人オーケストラのできる方。
様々な楽器を駆使してワイワイと騒がれているような錯覚を覚えます。
七色の声を持つ男ならぬ七色の音を出す男?

四曲はあっという間に終わってしまいました。
クラシックのコンサートで時折見かける、演奏中に私語する方というのが、このリサイタルではやはり全く見当たりません。
子どもの姿もあったはずなのに、ぐずったり私語したりしている様子も見られません。
この場にいる全員が森下兄弟に集中している証拠なんじゃないかなあと嬉しくなりました。


遂に「ガンバスター組曲」が始まりました。
すぐ近くの席の男性の方は「ガンバスター組曲」が心底お好きなようで、全身でリズムをとりながら聴き入っていらっしゃいました。
強いところは大きく、弱いところは小さく、ずっと体が揺れていて、本当に聴き込んでいらっしゃるんだろうなあとすぐに分かるほどでした。
「トップをねらえ!」と言えば、高校の先輩がその素晴らしさを熱弁していらっしゃったなあというのが一番心に残っている作品です。アニメージュにも特集が組まれて、見せていただいた覚えがあります。
結局観る機会はなくて、ストーリー自体はよくは分からないのですが、動画で何度も何度も見た曲が、実際に生演奏される素晴らしさと来たら!
初めて聞く曲を落ち着いて愉しめない派なので(主題探しとかしてしまう)、聴き込んでおいて本当に良かったと思いました。
ぽろぽろころころと弾み転がるような音の粒、ひたむきささえ伝わってくる体の動き、いつまでも耳の奥に残り続ける残響。
音楽用のホールで聴く生音って本当に響いてくるんだなあという、実にありきたりな感想ですが、これは生演奏を実際に聞くのでなければ得られない実感ですから良しとして下さい。
20分もあるはずの大曲は、あっという間に終わってしまいました。


そして一人連弾「Quatre Mains」。
これも正直、知らない曲です。
複雑かつ目まぐるしく変わる曲を、ぶっちゃけ「今弾いている曲は何だろう?」と思いながら、半ば茫然としながら聴きます。
動画で流れたフレーズは、アレ? ここかな? え? あ、じゃあこれ連弾か!? という感じで、追い切れないうちに曲は終わってしまいました。
こんなことなら元の曲を探して聴き込んでおけばよかった。
そうしたらもっと楽しめたかと思うと残念で仕方ありません。


そしてアンコールはドビュッシーの「月の光」。
ドビュッシーの中では一番好きな曲、数あるピアノ曲の中でも好きな曲ランキングのかなり上位に食い込む曲です。馬鹿みたいに繰り返し繰り返し聴き込んだ、クラシックのカセットの中の一曲です。
まさかそれを弾いて下さるとは。じゃあいつかモーツァルトの「きらきら星の主題による12の変奏曲」も聴けたらいいなあと思いながら、ひたすら目を凝らし耳を澄ませます。

一人連弾の直後ですから、おそらく腕はパンパンでしょうに、それでもこれだけやわらかでまろやかな音が出せるのかと、半ば茫然としながら聞き入ります。
なめらかな音がピアノから次々に湧き出して、四方八方に広まっていくような、そんなファンタスティックな錯覚を覚えます。
どうして森下唯のピアノの音はぴかぴか光って見えるのか、きらきらと輝いた音に聞こえるのか、不思議で不思議で仕方がないんですが、本当に聴衆がいるのが疑問に思うくらい静まり返った会場中に、音と光が満ち溢れていくような錯覚を覚えます。
アンコールでは「蒼い鳥」を弾いては下さらないかなあという期待はどこかに消えてしまいました。
1,200kmはやはりたいした距離ではなかったと確信した瞬間でもありました。
「やっぱり調布音楽祭2014に行こう」と決断して本当に良かった。


こうして一言のお言葉を発されることもないまま、「森下唯&ピアニート公爵 ジョイントリサイタル」は閉幕したのでありました。
上手くしゃべれなければテンポが乱れるとか、演出の都合上どうしても入れられなかったとか(もしかしたらご本人がトークがあまりお好きでないとか)、言いたいことはすべて曲に籠めたしプログラムノートにも書いたとか、多分さまざまな理由が折り重なって、ノーコメントリサイタルと相成ったのではないかと思います、残念ですが。


満たされ過ぎてうまく働かない全身を総動員してロビーに出、CD販売の列に並びます。
既に森下兄弟はロビーの隅にスタンバイされていて、ステージからその場まで、どういう動線になっているのかは分かりませんが、コップ一杯の水を飲むくらいの時間は取れたのかしらと不安になるほどの素早さ。
「サイン会」と称しても恥ずかしくない程度には長蛇の列ができていることに胸を撫で下ろしながら、最後尾へと並びました。
お店の方が長距離移動に耐えうるようにと数人がかりで考えて下さって梱包して下さった博多名菓の紙袋を、待っている間にそろそろと開けてスタンバイです。
途中、写真撮影をお願いしている方をそれはそれは羨ましく思いながら、そんな勇気はきっと振り絞れないだろうなあとしょんぼりしながら、自分の順番を待ちました。

そして遂に! Yukiの番に!

まずは「お疲れのところすみません」と言うべきところで、いきなり「お忙しいところすみません」と言ってしまった自分に愕然としつつ。
とりあえずは「お疲れのところお時間いただいてすみません」と言い直してから、社交辞令の行く行く詐欺ではなくて本当に来ました! ということをお伝えした訳ですが、「目測を誤って阿呆みたいに時間かかっちゃいました(てへぺろ)」はどうやら失敗してしまったらしく、「うわ、マジで来たんだーm9(^Д^)」となるどころか、「それは大変なご足労を」とこちらがいたたまれなくなるほど申し訳なさそうな顔をされてしまいました。

そもそも論として、すべてをセッティングして、椅子をお引きして、「どうぞこちらでお弾き下さい」と言えない以上、準備して下さった場に集まるのは至極当然の流れな訳です。
しかも無駄に時間がかかったのは、Yukiの自業自得なので、全く気にする必要はないにもかかわらず、です。

どうしよう、森下唯はめっちゃ天使だった。

とにもかくにもささやかながら森下兄弟用と、広報猫とろこさん用と、スタッフの皆さん用(最終日の今このタイミングかよ、というツッコミはなしの方向で)の差入れをお渡しして、連名のサインをいただいて、やっぱり写真の件は言いだせなくて、全力で後ろ髪を引かれながら、くすのきホールを後にしたのでありました。

踊り場に出た瞬間から、やっぱりUターンして写真の件を切り出したくてしょうがない誘惑に駆られながら、今ならダッシュで最後尾に並び直したらまだ間に合うかなとかぐるぐるぐるぐる考えながら、どうにかこうにか建物の外に出ました。

最後まで締まらないのがYukiクオリティ。
生演奏を一度でいいから聴いてみたいという願望を、今回こうして叶えられた訳ですから、「勇気を振り絞って一緒にお写真よろしいですかと切り出したい」という願望も、いつかは叶えられたらいいなあ。
posted by Yuki at 23:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽(イベント) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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